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いつもお世話になっている皆様へ

起業家の中の起業家

 5月7日の講義は映画監督の錦織良成さんでした。監督と初めて出会ったのは、2006年にミラクルバナナという映画が公開された年の頃ですから、15年前のことになります。この映画の音楽を担当された角松敏生さんもその後何年か講義に来てもらい、講義をして頂いたが、角松さんも錦織監督も注目されることが、多く、上から目線の人かもしれないと想像していたが、全くそのようなことはなくて、とても魅力的であることに驚いたことを覚えています。

 そもそも、ベンチャー起業論という講義にどうして、作曲家や映画監督をお呼びしているのかという疑問を口にされる人がおられますが、私は、錦織さんという映画監督をとうして、「映画監督こそ、ベンチャー起業家の中の起業家である」と実感しています。これまでに監督が作ってこられた映画は以下のとおりです。
 

☆印は「島根シリーズ」。

 

 このように、1995年から2019年(コロナ前まで)24年間で13作品と一年半から2年に一本のペースで作り続けておられるが、このことがどれほど大変なことなのか想像して欲しい。緒方拳、 中村嘉葎雄、奈良岡萌子、宮崎美子など多くの超豪華キャストに協力してもらい、ロケ地も日本だけでなく、中米カリブ海に浮かぶハイチ共和国だったりします。また、監督は実写に特にこだわり、デジタル映像ではなく、フィルムでなければならないと言い続けておられます。このこだわりは、制作費にも反映され、高いときには10億円近いと想像している。伝統的なたたらを再現し、そこで実際に刀を作るだけでなく、村も作ってしまう。映像は正直で偽物では、世界には通じないとの信念を持っておられる。実際この信念は実証され、現実に映画たたら侍は第40回モントリオール世界映画祭で最優秀芸術貢献賞を受賞されています。

映画監督のビジネスモデル

 私は、映画監督のビジネスモデルは、想像を絶する困難を伴うと想像しています。最大の問題は、製作時にはお金がかかるばかりで、最低でも映画の劇場公開までの期間は無収入であるという点です。この期間は、最低でも1年から2年、現在のようにコロナなどがあると、まったく、先が見えない状況です。これに対して、私が所属している大学は、真逆のビジネスモデルです。

学生は、入学を決意した時点で、入学金、授業料を払い込まないと学生としての身分が保証されないのです。昨年や今年は、コロナの影響で、大学への入構も禁止され、大学の施設の一切を利用できない状態になっても、授業料の減免もないのです。教育の質が如何に低下しようとも、学生サービスが低下しようとも、「命ファースト」という大義名分で頂いたものは返さないことを当然のように考えている訳です。収入は変わらないけど、施設が利用できないということは、光熱費などの費用は激減している筈です。すくなくとも短期的には、コロナは大学の経営にはプラスであるため、大学の経営者には真剣さがありません。

真剣勝負をし続けてきた人

 これに対して、映画とかの世界では、作品が最終的に受け入れられるかどうか、つまり結果だけが評価の対象になっており、過去の評価が次の作品への期待となり、これが映画を作り続けることを可能にしている訳です。簡単にいうと、監督の役者さん、出資者、そして映画をみる人たちのすべての人の心を捉え続けることで初めて、継続して映画を取り続けることができることになります。このように考えると。錦織監督が1995年からずっと映画を取り続けておられることは、奇跡的なことです。

このような真剣勝負をし続けてきた人から、特に私のような大学の教員として、「学歴社会」の中で、真剣勝負を避けて生きてこれたものは、学ぶことが多いと考えています、なぜなら、コロナは、社会の矛盾をとても分かりやすく可視化してくれたし、本物と偽物の違いを見せつけてくれると信じているからです。

 私達が学校で学ぶことの多くは、スマホで検索するだけで得られる時代になりました。単純な繰り返し作業は、ロボットがやってくれるでしょう。人に笑いや感動を与えたり、笑ったり、泣いたりの人生をより良いものにするために、こらからの人は時間とお金を使うことになるでしょう。

 

 次回の講義は5月14日です。福岡も非常事態宣言もあり、次回から完全オンライで行います。講師は奥田知志さんです。奥田さんは東八幡教会の牧師で、ホームレス支援をライフワークとして行われている。奥田さんは「ホームレスとは住む家を持っていない人というより、頼るべき人や絆を持たない人」として、自立支援をしておられます。

 

 

2021年5月10日 阿比留正弘

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