2021年 7月16日講義
㈱さわかみホールディングス
澤上 篤人氏
いつもお世話になっている皆様へ
質素なライフスタイルと自然体の人柄
先週の講義は、前期最後の講義で、澤上篤人さんが来てくださいました。澤上さんは2009年から非常勤講師として福岡大学に来ていただいています。最初に講義に来ていただいたとき、澤上さんが福岡空港からバスを乗り継いで、2時間くらいかけて、大学に来られたことを聞いたとき、とても驚きました。地下鉄やタクシーでで来れば、長く見積もっても40分くらいのところ、秘書の方がバスで調べられてとても遠回りをされたこと知った時、嬉しそうに明るい声で、「今度は地下鉄で来ます」と言われました。質素なライフスタイルと自然体のお人柄に心を打たれたのを覚えています。その後、毎年、講義に来て頂いていますが、この時の印象は全く変わりません。
自分に厳しく、他人に優しく
講義では2年生の菅野さんが、講師紹介で、澤上さんの学生時代の紹介をしてくれました。それによれば、澤上さんは46個のバイトをしながら、サッカー部のキャプテンの役割を果たし、3年間で卒業単位を取り、卒論も書き、世界への旅行ををするとともに英語、フランス語も習得されるという超人的な学生生活を送られていたそうです。自分に厳しい人は他人には優しくできるのかなと勝手に想像しています。
長期投資が日本経済を元気にする
澤上さんの講義は長期投資が日本経済を元気にすることが、わかりやすく伝えられました。日本には個人の預貯金が936兆円(2020年9月末、日銀速報)が眠っている。このお金は、現在の超低金利年0.001%で運用すると2倍になるのに7万2000年かかることになります。ちなみにこの数字は、アメリカの高校生であれば誰でも知っている72の法則を使って計算できます。複利でx%の金利で運用すると2倍になるのにかかる年数は72➗x=72000(x=0.001のとき)となります。
また、936兆円の5%でも10%ででも長期投資に回せば、日本経済に8%から17%の成長インパクトを与えるそうです。また3%を寄付に回したとすれば、日本経済は5.1%成長するということです。
澤上さんの凄いところは、人に言うだけでなく、実践しているところです。さわかみ投信の毎年の利益は10億円前後ですが、利益の殆どを、スポーツヤ芸術の振興などにわれているところです。大きな活動としては、公益法人さわかみオペラ財団があります。本場イタリアの本物のオペラを広く日本の人々に知ってほしいという思いから活動されており、詳しいことはネットで情報を得ることが出来ます。また、今年の講義で初めて聞いたこととして、一般財団法人さわかみ財団の活動の一つとして生マグロ直販クラブの話があります。マグロの漁法として、まき網業法というのがあります。これは、マグロの群れを大きな網ですべてとってしまう方法です。この漁法はマグロ資源の枯渇や簡単に多くのマグロを捕獲するために、マグロの市場価格を下げ、漁師の生活を不安定化し、後継者不足にも拍車をかけます。これに対して、和歌山県の那智勝浦港でマグロの仲買人をしている人に脇口光太郎という人がおられます。彼は、マグロの一本釣り漁法という非効率的な釣り上げられたマグロしか買わないというこだわりを持った人です。澤上さんは、脇口さんと10年以上前に出会い、伝統的な漁法と地域の産業を守るために、生マグロ直販クラブを立ち上げられました。他にもさわかみ財団では日本の将来にとって重要な課題について、いろいろな活動をされています。澤上さんは自分自身のためには、冒頭で述べたようにとても慎ましい生活をされています。しかし、日本が抱えている社会的な課題解決のためには、惜しげもなく大金を使われます。この生き方はとてもかっこいいと思います。
稼いだ金の使い方で本当の姿がわかる
この講義の翌日の7月17日に第2回公益資本主義公開フォーラムを澤上さんの長男でさわかみ投信の社長澤上龍さんにも登壇して頂きました。龍さんには、さわかみ投信の入り口の話になりますが、創業者である澤上篤人さんの話は、出口の話になります。稼いだお金をどう使うかで、その会社の本当の姿がわかります。よく澤上さんはかっこいい人生、かっこいいお金の使い方と言われますが、これはまさに公益資本主義の最高の実践事例であると思います。第2回公益資本主義公開フォーラムの様子はこちらから御覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=gchfkf5_W6s&t=1117
アスリート、アーティストへの支援のカタチ
澤上さんの講義を受けて、こんなことを考えました。
よく、「あなたの夢はなんですか?」という問がいろんなところで発せられますが、小学生などの典型的な答えが、野球選手になりたいとかサッカー選手とかよく聞きます。趣味の延長線上で、画家になりたいとか、歌手とかもよく耳にするところです。ところが、このような職業で食べることは、とても大変で。ほんの一部のスター選手や、有名歌手、以外はとても苦しい生活をしているように思います。私が特に大変だなあと思うのは、高校野球や大学野球で注目されて、ドラフト会議に高額の契約金を手にする人たちです。ライフサイクルの観点からすると20代というそれほど、お金が必要でないときに、お金の使い方についての学びをしていない段階で大金を持つとどうなるか?高級車や高級マンションなどを買い、セレブな生活を送ることが予想されます。高額の収入が死ぬまで継続するのであればいいのですが、スポーツ選手の場合、結婚し、子供が出来て、子供が進学してお金が必要になったときに、競技生活で高い収入を確保し続けることができる保証はありません。多くの選手は、第2の人生に躓いたり、犯罪行為でニュースになることも珍しくありません。
このようなスポーツ選手は高額の契約金をもらったときに、そのお金のことは忘れて、長期投資をするとどうなるでしょうか?また、年齢を重ねて選手として通用しないようになると、そのような人を企業は積極的に雇用することを仲介するのもありではないかと考えます。彼らは、プロスポーツ選手としての実績、目標を決めて、そのために自己管理することはとても得意です。このような人は、企業の経営人材としても有用だと思います。若者の夢を応援する文化を作ることで、日本経済が成長するのであれば、応援の輪を広げることは大切だなあと実感させられた講義でした。
2021年7月22日 阿比留正弘